エカワ珈琲店の出来事

エカワ珈琲店の爺さんと婆さんの日常と仕事の出来事、それと備忘録・雑記帳。

焙煎機をしばし休ませて

12月の風が冷たさを増す頃、妻の容態が少しずつ、けれど確かに、芳しくなくなってきました。

今は個室に入院しています。大部屋では面会が難しいため、少しでも長く一緒に過ごせるようにと、個室を選びました。

幸い、以前の大病院に比べれば費用も抑えられ、金銭的にはなんとか耐えられそうです。

 

今週に入ってから、私はほとんどの面会時間を病室で過ごしています。

何か特別なことをするわけではありません。

ただ、椅子に腰かけて、妻のそばにいるだけです。

ときどき手を握り、目が合えば微笑み合う。

それだけで、妻の表情がやわらぎ、安心してくれているのが伝わってきます。

 

言葉は少なくなりましたが、沈黙の中にも確かなぬくもりがあります。

「いてくれるだけでいい」と、そんなふうに言ってくれているような気がするのです。

目を閉じている時間が長くなっても、私の気配を感じてくれているのがわかります。

心と心が、静かに、でも確かに通じ合っている。

そんな時間を、今は何よりも大切にしたいと思っています。

 

昨日の朝、一本の電話が鳴りました。発信者は、入院中の妻。

スマートフォンを使うのも難しくなってきているはずなのに、「早く来て」と、か細く、でもはっきりとした声で。

その声を聞いた瞬間、私はすべてを置いて病院へ向かいました。

気がつけば、店のドアの鍵をかけ忘れていたのです。

午前10時から午後6時まで、エカワ珈琲店は誰でも入れる状態のまま、ぽっかりと空いていました。

 

幸い、何事もなく済みましたが、帰宅してその事実に気づいたとき、背筋に冷たいものが走りました。

エカワ珈琲店は、自家焙煎のコーヒー豆を販売する、小さな、けれど大切な店です。

焙煎には火を使います。香りを引き出すための、繊細で、そして危うい熱。

けれど今の私の心と体の状態では、その火を扱うことが危険だと、はっきり感じました。

 

74歳という年齢。

積み重なる疲労。妻の容態を案じる気持ちと、日々の緊張。

それらが重なって、心身ともに限界が近づいているのを、自分でも感じています。

だから、今日、12月24日から、思い切って商売をお休みすることにしました。

焙煎機には、しばらくの間、静かに休んでもらいます。

妻の容態が落ち着き、また家に戻ってこられる日まで。

 

その日が来たら、また火を入れ、豆を煎り、香りを立ちのぼらせたい。

お客様にはご不便をおかけしますが、どうかご理解いただければ幸いです。

また笑顔で、皆さまとコーヒーの話ができる日を、心から願っています。