
3月の中旬、長い休業を経てエカワ珈琲店の焙煎を再開した頃、私はまだ本調子とは言えませんでした。
週に1日、午前中に2バッチ焙煎するだけで、ぐったりと疲れ、体調もどこか不安定。
焙煎という仕事は、体力よりも気力を使うものだと、あらためて思い知らされました。
ところが4月の中旬を過ぎる頃から、少しずつ身体が軽くなり、気力も戻ってきました。
焙煎回数は自然と増え、5月の中旬には週2〜3日、1日に2〜3回焙煎しても、それほど疲れを感じなくなっていました。
6月に入っても、そのペースはしばらく続きました。
売上は3月と6月で大きく変わっているわけではありません。
それでも、焙煎量は2倍以上。
理由は単純で、私は焙煎が好きなのです。
焙煎しているとき、心が静まり、気持ちが整う。
焙煎機の前に立つ時間は、私にとって“精神の安定剤”のようなものです。
「香り袋」が増えすぎて気づいたこと
エカワ珈琲店のキャッチフレーズは「煎り立て・新鮮・香りの良い焙煎コーヒー豆」。
そのため、焙煎後2週間を経過した豆は通常販売しません。
売れ残った豆は「香り袋」にして、販促品としてお客さんに配ってきました。
ただ、原価率40〜50%の商売で、焙煎した豆の半分が香り袋になってしまえば、当然ながら赤字です。
しかも、よく考えてみれば——
季節にもよりますが、焙煎後2〜3週間こそ、コーヒーが最もおいしく味わえる時期です。
「いちばん飲み頃の豆を、香り袋にして配ってしまっているのではないか?」
そんな疑問が、ふと胸に浮かびました。
試し焙煎が増え、仕入れが売上を上回る異常事態
4月の後半から体調が少しずつ戻ってきたことで、私はつい調子に乗ってしまいました。
いろいろな銘柄の生豆を仕入れては「試し焙煎」。
焙煎は楽しいし、焙煎していると気分が良くなる。
だから、ついつい焙煎量が増えてしまう。
その結果、4月と5月は「売上」よりも「生豆の仕入れ額」が上回ってしまいました。
原価率40%の商売でこれは異常です。
つまり、売れ残りが大量に発生しているということ。
このままでは、焙煎すればするほど赤字になる。
そんな当たり前のことに、ようやく気づきました。
お客さんの助言で決めた「アウトレットコーヒー」
「焙煎後2週間以内の豆しか売らない」というルールは、品質のために守ってきたものです。
しかし、焙煎後15〜21日ほど経った豆は、むしろ飲み頃。
香り袋にしてしまうのは、あまりにももったいない。
何人かのお客さんからも、
「アウトレットで売ればいいのに」
と助言をいただいていました。
そこで思い切って、アウトレットコーヒーの販売を始めることにしました。
焙煎後15〜21日ほど経過した豆
通常価格の25〜30%割引
数量限定・売り切れ御免
という形です。
品質は十分。むしろ飲み頃。
それを必要としてくれるお客さんに届けられるなら、こんなに良いことはありません。
焙煎の火を絶やさないために
私は焙煎が好きです。
焙煎しているとき、心が落ち着き、店の空気が整っていくように感じます。
だからこそ、焙煎しすぎて赤字になるようなやり方では、長く続けられません。
アウトレットコーヒーは、焙煎の火を絶やさず、
そしてお客さんにも喜んでもらえる、ちょうど良い落としどころなのかもしれません。
これからも、無理のないペースで、
焙煎の煙を細く長く、静かに立ち上らせていきたいと思っています。


