エカワ珈琲店の出来事

主に、エカワ珈琲店の日常の物語をお届けしています。

小さな一歩が、止まっていた時間を動かした日

新しいパソコンを開封した朝に

三月一日の日曜日に注文したパソコンが、四日の水曜日に届いた。

段ボール箱を開けたのは、翌日の木曜日。

新しい機械の匂いと、薄い保護フィルムの手触り。

そのどれもが、久しぶりに「未来」を感じさせてくれた。

初期設定にはいつも悩まされる。

しかし今回は、去年の三月に自分で書き残しておいたブログ記事が役に立った。

あのときの自分が、今の自分を助けてくれたような、不思議な感覚だった。

記事を見ながら一つずつ進めていくと、迷うことなく一時間ほどで設定が終わった。

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妻を守るために考えた商売のかたち

去年の秋、私は「通信販売に注力するべきだ」と考えるようになっていた。

身体障害者手帳一級、要介護五の妻を守りながら商売を続けるには、店でお客さんを待つやり方では限界があった。

営業時間に縛られず、体調や介護の状況に合わせて動ける通信販売なら、なんとか続けられるかもしれない。

そう思って、予備のパソコンを買うための資金も準備していた。

ところが十月初旬、コンセント増設工事の請求書が予算の一・五倍で届いた。

怒りを覚えたが、揉めても仕方がない。

パソコン購入資金から数万円を流用して支払った。

それでも十二月には新しいパソコンを買うつもりでいた。

しかし、そこから妻の容態が悪くなり、私自身も体調を崩した。

十二月後半、私は心不全で緊急入院し、妻はその二日後に亡くなった。

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守るべきものを失ったあとで

妻を失ってから三か月近く、焙煎コーヒー豆の商売は休業している。

去年の私は「守るべきもの」があった。

今の私は、一人で食べていければそれでいい。

通信販売で必死に稼ぐ必要もなくなった。

しかし、何もせず家に閉じこもっていると、心が不安定になる。

妻がいないという現実は、静かに、しかし確実に心を揺らす。

そんなとき、焙煎機の音や、豆の香りを思い出す。

商売を再開することが、精神的なショックを和らげる特効薬になるのではないかと、何度も考えた。

だが、頭で「再開しよう」と思っても、体が動かない。

理由をつけて先延ばしにしてしまう。

このままでは、いつまでたっても前に進めない。

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小さく、こじんまりと、もう一度

そこで思い出したのが、去年の秋に考えていた「通信販売に注力する商売」だった。

大きく再開する必要はない。

こじんまりと、小さく始めればいい。

その第一歩として、新しいパソコンを買うことにした。

頭の中で考えるだけではなく、実際に行動を起こした。

段ボールを開け、初期設定を終え、棚の上に新しいパソコンが置かれた瞬間、「まだ自分は動ける」と、ほんの少しだけ思えた。

この小さな一歩が、これからの自分をどこへ連れていくのかは分からない。

けれど、動き出したという事実だけは、確かにここにある。