エカワ珈琲店の出来事

エカワ珈琲店の爺さんと婆さんの日常と仕事の出来事、それと備忘録・雑記帳。

商売を再開する前に、立ち止まって考えたこと

仕方のないことなのですが、どうにも心が落ち着かない日が続いている。

「この不安定さから抜け出すには、商売を再開するのが一番だ」と思い、焙煎機の前に立つ自分の姿を何度も思い浮かべた。

コーヒー豆を焙煎し、通販サイトと店を開ければ、また日常が戻ってくる。そう信じたかった。

 

けれど、ふと立ち止まって考え直した。

焦って再開すれば、赤字を抱える可能性が高いのではないか。

商売というのは、気持ちだけでどうにかなるものではない。

とくに個人店の焙煎コーヒー豆商売は、常連さんとの信頼関係で成り立っている。

月に一度、二度、あるいは週に一度、必ず豆を買いに来てくれる人たちがいて、ようやく商売として形になる。

 

その人たちが、今は別の店で豆を買っている。

それは当然のことだし、むしろ「コーヒーのある暮らし」を続けてくれているのだと思えば、どこか嬉しくもある。

ただ、現実としては、こちらの売上はゼロのまま時間だけが過ぎていく。

そして、再開したからといって、すぐに以前のように電話が鳴り始めるとは限らない。

 

二か月という時間は、商売にとっては決して短くない。

お客さんの生活リズムも、買い物の習慣も、その間に少しずつ変わっていく。

「またあの店で買おう」と思ってくれる人もいれば、「今の店で十分」と感じる人もいるだろう。

その揺れを受け止める覚悟が必要だと、ようやく気づいた。

 

だからこそ、準備不足のまま再開するのは危険だ。

焙煎した豆が売れ残れば、鮮度を守るために処分するしかない。

それが積み重なれば、赤字はあっという間に膨らむ。

焦りを抑え、慎重に準備を整えることが、結局は商売を守ることになる。

 

それまでは、休業している事を告げて平謝りしていた注文の予約電話も、1月の後半からはぴたりと止まった。

あれほど当たり前のように鳴っていた電話が沈黙すると、店の空気まで変わってしまう。

「煎り立ての豆を売る」という個人店の強みは、鮮度を保つために“売れ残りを処分する”という弱点と背中合わせだ。

これは、長年やってきたからこそ痛いほど分かっている。

 

どれだけ手間をかけて焙煎しても、二週間を過ぎた豆は、心を鬼にして捨てるしかない。

豆を捨てるたびに、胸のどこかがきゅっと縮む。

「これは商売なんだ」と自分に言い聞かせながら、何度も袋をゴミ箱に落としてきた。

 

だからこそ、準備不足のまま再開して、売れ残りが増えれば、赤字は避けられない。

赤字というのは、ただ数字がマイナスになるというだけではない。

仕事への自信や誇りまで削られていくような、じわりとした痛みを伴う。

焦って再開して、その痛みを招くようなことはしたくない。

 

さらに、焙煎からも二か月近く離れている。

焙煎というのは、身体が覚えているようでいて、実は繊細な感覚の積み重ねだ。

火の入り方、豆の膨らみ方、香りの変化。

少し離れるだけで、その勘が鈍ることを自分が一番よく知っている。

 

久しぶりに買いに来てくれたお客さんに「やっぱりここの豆じゃないと」と言ってもらうためには、味の点検が欠かせない。

焙煎した豆の味が落ち着くまでには、最低でも二週間、できれば三〜四週間は見ておきたい。

豆が落ち着くのを待つ時間は、ただの“待ち時間”ではない。

 

感覚を取り戻し、焙煎の勘を確かめ、再開に向けて心を整えるための大切な期間でもある。

焦りはある。

けれど、焦りに任せて動けば、商売も、自分自身も傷つけてしまう。

だからこそ、いまは踏みとどまり、準備を積み重ねるしかない。

 

去年の11月頃の販売量を確保できれば、赤字になることはない。

そして、毎月の年金収入があるので、家計も赤字になることはない。

原価率が40%くらいになるように少しだけ値上げすれば、年金に頼らずとも暮らしていけるだけの利益が出る。

 

その数字は、長年の経験から導き出した“現実的な目安”であり、同時に“再開後の目標”でもある。

ただ、その水準に戻すためには、再開前の準備がどうしても必要だ。

www.ekawacoffee.xyz

 

店を開けさえすればお客さんが戻ってくる、というほど甘い世界ではない。

二か月の休業は、常連さんの生活リズムにも影響を与えている。

ただ、その水準に戻すためには、再開前の準備がどうしても必要だ。

 

だからこそ、「再開しますよ」という知らせを、こちらから丁寧に届けなければならない。

パンフレットを作り、再開のお知らせをダイレクトメールで送り、ほかにも宣伝の方法を考える。

ただ情報を伝えるだけではなく、「またあの味が戻ってくるんだ」と思ってもらえるような、温かみのある知らせにしたい。

 

店の再開は、こちらにとっては“日常の回復”だが、お客さんにとっては“選択肢のひとつ”にすぎない。

だからこそ、できるだけ多くの人に「店が戻ってくるよ」と知ってもらう必要がある。

そう考えて、商売再開の時期を一か月遅らせることにした。

 

焦りを抑え、三月中旬の再開を目指す。

いまはそのための準備期間だ。

この一か月は、ただの延期ではなく、商売を立て直すための“助走”だと思うようにしている。