需要が供給を上回っていた時代、1970年代の前半頃まで、何とか成り立っていた生業商売に『軒先商売』というものがあります。
自宅の軒先を店舗にして、店舗の奥には部屋があって、その部屋にはテレビが置いてあります。
店の経営者とその家族は、その店舗奥の部屋でテレビを見ながら、本を読みながら、寝転びながら店番をしています。お客さんが来店すれば、その部屋から店舗の部分に出て行って接客するわけです
【参考】選挙運動とマーケティング、よく似ていると思います。
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三丁目の夕日に登場する軒先商売
映画「三丁目の夕日」に登場する、あの風景です。
家族営業でなければ成り立たない商売ですが、それでも結構稼いでいる店も存在していました。
駄菓子屋さん、小さな本屋さん、八百屋さん、雑貨屋さん、食べ物やさん、飲み屋さん、薬屋さんと、路地裏に立地している商店の大半が軒先商売を営んでいました。
ターゲットは近所の人たちと近所の事業所や家庭への配達ですから、半径500m~1㎞の商売です。
軒先商売の特徴は「ながら商売」
「軒先商売」の特徴は、「何々しながら」商売ができることです。忙しくなければ、それほど商売に集中する必要がありません。
私生活なのか商売なのか、その「けじめ」が無いのが「軒先商売」です。
同じ生業商売でも、私生活と商売の「けじめ」が存在している、商店街の商店やテナント入居している商店などとは、商売の仕方で異なっているのが『軒先商売』です。
軒先商売の凋落
1970年代に入って、供給が需要に追いつくようになってくると、『軒先商売』に対する需要が急速に萎んでしまいます。
売り手と買い手の間に「情報格差」が存在するからモノが売れるわけで、「情報格差」が無くなってしまえば、モノは売れなくなってしまいます。
「軒先店舗」程度の情報量では満足感を覚え無くなってしまった人たちは、地域の商店街や新しく登場して来たスーパーマーケットを頻繁に利用するようになって、「軒先店舗」を利用しなくなってしまいました。
その後、地域の商店街の情報量にも満足できなくなった人たちは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアー、ショッピングセンターやカテゴリー特化の専門店へと流れて行くことになります。
情報格差が存在しなければ
ということで、売り手と買い手との情報格差を作ることのできなかった個人商店や商店街は、企業系の流通小売店舗にお客さんを奪われてしまいました。
21世紀の現在、「軒先店舗」で商売を営んでいる個人生業店ですが、ほとんど残っていません。「軒先商売」は、絶滅危惧種の商売になっています。
でも、21世紀の現在(2021年12月)でもほんの僅かですが残っていて、何とか生活を営めるだけの収入を稼いでいる「軒先店舗」も存在しています。
「軒先商売」が衰退するしか無かった経済環境の社会で、しぶとく生き残って来たわけですから、ものすごい生命力だと思います。
生き残っている軒先商売も
例えば、零細生業パパママ規模のコーヒー豆自家焙煎店「エカワ珈琲店」です。
2020年までの30年間は、自宅の一部分を店にした数坪の「軒先店舗」で「軒先商売」を営んで来ました。
そして、その『軒先商売』だけで、自分たちの生活を維持するのに不自由しないだけ稼げていました。
2020年の夏からは、「軒先店舗」をさらにエスカレート(進化)させた「窓カウンター型軒先店舗」で商売をしていますが、食べて行くくらいは十分に稼げています。
職人商売なら情報格差を作れる
年老いた珈琲豆焙煎屋夫婦が2人だけで営んでいるエカワ珈琲店が、何故、「軒先商売」で食べて行けるだけ稼げているのか、その理由を理屈ぽっく考えるてみると、それは、お客さんとエカワ珈琲店の間に、それなりの「情報格差」が存在しているからという結論に到達します。
そして、何故、「情報格差」を作ることができるのかというと、コーヒー豆自家焙煎商売は製造小売業型の職人商売で、年老いた珈琲豆焙煎屋夫婦が「コーヒー」に関して、それなりの知識・経験・技術を取得しているからだと考えています。
商売の基本は「異文化間の文化の交換」
売り手と買い手の間に「情報格差」が存在するから、商売が成り立つわけです。
「異文化間の文化の交換」、それが商売の基本なのだと、商売の教科書には書いてあります。
品揃えの豊富さ、価格の安さ、買い物の楽しさ、店舗の利用のしやすさ、宣伝・広告活動の上手下手、資金力の有る無しと、「情報格差」にもいろいろあります。
その「情報格差」のほとんどの要素で、企業相手ではもちろんのこと、商店街などに立地している個人生業店と比べても数段劣っているのが路地裏商売の「軒先店舗」です。
絶滅危惧種からの脱出
住居の一部を店舗にして、そこに商品を漠然と陳列して置くだけで商品が売れた時代、ものすごく情報量が少なかった時代ですから、そのような形の軒先商売が成り立ったと解釈しています。
その後、ただ漠然と店頭に僅かの商品を陳列して置くだけでは、売り手と買い手の間で「情報格差」を作るのが難しくなって行って、「軒先商売」が絶滅危惧種の商売になってしまったと年老いた珈琲豆焙煎屋は解釈しています。
ということは、「情報格差」を作ることができれば、「軒先店舗」や「窓カウンター型店舗」で「軒先商売」を気楽に営むことも可能になると思います。
行列のできる「たい焼き」のパパ・ママ店、おじいさんとおばあさんで「揚げパン」を作って売っている路地裏のお店、昔ながらの出窓販売で「たこ焼き」を売っている店と、「軒先店舗」で結構繁盛している店もあります。
自家焙煎のコーヒー豆を「窓カウンター型軒先店舗」で小売販売しているエカワ珈琲店も、「軒先商売」で何とか食べて行くだけ稼いでいます。
軒先商売で結構繁盛している店は情報格差を利用している
『軒先店舗』で『軒先商売』を営んでいて、結構繁盛している店や何とか食べて行くだけ稼いでいる店ですが、その理由として、食品を商っているなら「美味しいから」という風に説明されたりします。
「美味しいから」ということも、「情報格差」の要素の一つになると思いますが、決してそれだけではなくて、なかなか真似をされない「情報格差」が他にも存在しているわけです。
でなければ、「軒先商売」を営む生業店が、「まあまあ繁盛したり」、「何とか食べて行けたり」するのが難しい時代、それが21世紀の現在(2021年)だと考えます。
エカワ珈琲店の軒先商売
参考までに、エカワ珈琲店の軒先商売です。
店内販売ではなくて、窓カウンターで自家焙煎コーヒー豆を小売販売しているわけですから、コーヒー関連商品を豊富に品揃えするのは無理です。
また、豊富に品揃えするだけの資金力もありません。
ですから、コーヒーの抽出方法と飲み方にこだわった商売に徹することにしています。
ハンドドリップという手作業によるドリップ抽出(ペーパーor布)で淹れたコーヒーを、砂糖やミルクを添加せずにブラックコーヒーで楽しむコーヒー消費者向けに、自家焙煎した新鮮な焙煎コーヒー豆を小売り販売する商売に徹しています。
「情報格差」のターゲットを設定して、その部分で徹底的に「情報格差」を創出することで、自家焙煎コーヒー豆の『軒先商売』で何とか食べて行くだけ稼ぐことができています。
ということで、零細生業パパママ規模の「軒先商売」であっても、ターゲットを決めて、徹底的にこだわれば『情報格差』を作ることができると、年老いた珈琲豆焙煎屋は考えています。
アマゾンもガレージ店舗の軒先商売から始まった
零細生業のガレージ店舗で「軒先商売」を開始した「アマゾン」ですが、徹底的な『情報格差』を武器にして10年足らずで世界最大の小売書店に成長しています。
個人が営む生業商売の最先端がオンラインを利用するマイクロビジネスですが、そのオンラインを利用するマイクロビジネスの大半は、基本的に「軒先商売」だと思います。
もしかしたら、21世紀の今(2021年)、ビジネスの最先端を走っているのは「軒先商売」なのかもしれません。